映画『かがみの孤城』『オトナ帝国の逆襲』舞台挨拶 内容書き起こし(2024/02/24)

注意事項

個人的なメモを書き起こしたものです。 細かい言い回し等まで完璧に再現できているものではありません。 また内容に誤りを含む可能性があります。 ご了承ください。 致命的な誤りがありましたら修正しますのでご指摘をお願いします。

イベント情報

トーク内容

は=原恵一監督の発言です。 お=小黒祐一郎編集長の発言です。 各見出しは公式のものではありません。

はじめに

  • お:今日初めてかがみの孤城を見た人は?...多い。
  • は:けしからん(笑)。
  • お:オトナ帝国が初めての人は?...少ない。

ヒット

  • お:かがみの孤城は20年ぶりのヒット作とのことですね。
  • は:アッパレ(戦国大合戦)以来すべてこけて、でもそれでも作らせてもらった。かがみの孤城で(10億くらい)ヒットして良かった。
  • お:河童のクゥで終わりかと思っていた。それがまた新作が来て、そして大ヒットと。
  • は:河童のクウ→カラフル→はじまりのみち→百日紅→バースデー・ワンダーランド→かがみの孤城、ときた。長編のしんちゃんは6本、それ以外でも6本。しんちゃんの監督というレッテルは剥がしていきたい。
  • お:今もしんちゃんの監督と言われるね。
  • は:それで気になってくれるのは嬉しい。実は泣かせる映画を作る監督と言われるのは不本意でギャグも下品もできる。どの監督も自由に作りたいものを作れるわけではない。得意分野が固定されている。
  • お:かがみの孤城もカラフルと似ていると思われている。
  • は:そう。カラフルも天使が最初に「おめでとう」と言うところから始まる(かがみの孤城ではオオカミ様が「ようこそ」)。テーマも「いじめ」「自殺」「中学生」と共通点があって、監督することにためらいがあった。IGの石川さんに言ったらすぐに小説を読んでくれて「絶対にやったほうが良い」と。石川さんの勘を信じてやって良かった。

映画尺

  • お:コンテやったときは膨らんだ?
  • は:それはなかった。難しいのは短くすること。小説は長編だが、アニメ化するために2時間以内にと言われる。それは無理だろうと。でもなんとか。こころを中心にした7人のストーリーで、脚本を作ったときには2時間を超えると思った。そこからは落とす作業。脚本でも絵コンテでも削った。打ち合わせをせずに欠番にしたものもあった。なので編集は楽。本編は1時間50分程度になった。原作ファンの人にも違和感を持たれないものにはなったと思う。ちょっとしたエピソードとかは原作から入れられなかった。説明の部分を絵として見せるとかも。
  • は:文字では違和感なくても絵になると違和感あるなあと絵コンテ書きながら思ったりもした。例えば鏡を通って城へ行ったり来たりするとき、家では靴を履き、城では靴を履かないが、どうしようと。原作にはそのようなことは書かれていない。最初はみんな靴下で、次からは靴を履くようにした。一回だけ見せてあとはなし。藤子先生のドラえもんでも家からタケコプターで飛んでいったりするのと同じ。エスパー魔美ではしっかりやりたいと思い、しっかり靴を履いててレポートするようにした。

原案

  • お:原さんの映画にしては「アニメ寄り」だった。昔の原さんからしたら「えっ?」となった。
  • は:いろいろあって。かがみの孤城の話は早い段階から企画が上がっていた。バースデー・ワンダーランドの絵コンテのときから。合間にキャラのラフをイリヤさんにお願いした。イリヤさんはロシアのすごいイラストレーター。攻殻機動隊とかで良い仕事をしていたのでかがみの孤城でも描いてもらった。
  • は:Signal MDで作るつもりだったができないと判断した。IGの石川さんにも相談したが無理で、結局A-1 Picturesで。A-1 Picturesのキャラデザをやっている人にも描いてもらおうと思って、佐々木啓悟さんに。それでほぼ完成形のものが出てきた。こっちも良いなと思った。イリヤさんは佐々木さんのほうが良いと。自分にとってはチャレンジだが今のお客さんにとっては良かったかも。
  • お:イリヤさんは原案ではないのね。
  • は:イリヤさんには城を作ってもらおうとなった。外観・内装・小道具・食器・模様など、日本人には描けないヨーロッパのデザイン。なるほどと思ったのは、部屋のドアが大きく、天井も高いこと。「そうそうそうだよ」と。宮殿とか無駄に空間が大きい。日本だと小さい。

動画・撮影

  • お:動画の線が細い。モニターで見ると。
  • は:それは自分の意図ではない。特に言ってもいない。初めて仕事をするスタジオで文化の違いがあった。例えばこころの髪の色。自分は茶系しかやったことがなかった。色彩設計のものを見たら濃い青で最初はびっくりしたが、濃い青が一番印象に残った(アニメっぽい)。映画でやってこれていて、3年に1回しか作らないので、その間に技術が進歩している。特に撮影。普通のカットでも髪のトップが少し明るく下にいくに連れて濃くなっている。それを知らなかった。こんなことをやっているんだと。あとは背景に影を落としたり、撮影に頼るものが多くなっている。
  • お:誰が判断している?
  • は:撮影の人が、そのほうが良いと思っていたからかと。
  • お:今は撮影の人が半分演出している。
  • は:すごいもんだなあと。彼らの仕事量が尋常じゃない。結局撮影はA-1から他のところの手伝いも入れてもらった。

絵コンテ

  • お:絵コンテは?しっかりキャラを描いている?
  • は:親切な絵コンテを描いている自覚はある。空間にカメラを置いて撮れるのを意識している。絵コンテは自分の仕事で一番力をいれるから時間がかかる。途中でラストシーンが浮かぶと手が動く。今回はこころとリオンの足元が並んで歩くところ、そこに向かっていけば良いと思った。最初ではぬかるみ、それが最後に光に向かって力強く歩くという変化を見せれば良いと。ラストショットが足元ってそんなに無い。良い顔を見せるより映画として良いと思った。
  • お:井上俊之さんのカットもちゃんと盛り上げて気持ちを高めてくれると思った。
  • は:他の子たちの辛い過去を見せたので派手にしたい、井上さんに頼もうと。あんな原画を描ける人はいない。カメラワークを手で表現&フルコマでやっている。細かいを指示を出している。最初は3コマ、次は2コマ、最後はスローで1コマ。松本さんや新井さんたちもスーパーアニメーター。5時が来てしまったときの大広間でのドローンカットのシーン、燃えるオオカミのシーン等。オオカミ様との会話→アキの救出の部分は井上さん。この「配役」はうまくいった。

作品との向き合い方

  • お:作品との向き合い方について。登場人物に真摯に向き合う、アニメキャラといって距離を取らず人間として扱うのを、エスパー魔美の頃からずっと一貫していると思う。
  • は:「こんなことするやつはいねえ」みたいな人は出したくなかった。アニメとはいえリアリティのあるキャラを譲らずやってこれている。
  • お:だからこそ重いテーマでも向き合えてこれている。
  • は:自分に何が足りないかを考えなくなってきた。このままで良いやと。
  • お:今まではフィクションならではのものを考えたことがあったときがある?
  • は:見た人が共感できることが大事だと思ってきた。それを自然に自分のスタイルにしている。しんちゃんも映画になったときリアリティがあるようにしている。今日上映されたケンとチャコも。オトナ帝国はしんちゃんとして5本目だったが革命的だった。彼らの行動を絵コンテで描いたときに思った。それまでの映画はパロティが多かった。最初はオトナ帝国でもそのようにしようかと迷ったが、馬鹿な悪役になるのは嫌だった。みんなには「こんなのしんちゃんじゃない」と言われるかもしれないと思った。偉い人には不評。でも真似じゃないものを作った!
  • お:オトナ帝国ブームだったね。
  • は:ロングラン。しんちゃんとして楽しんでくれた。映画ってこれで良いんだと教えてもらった。そこが転換点だった。最初はテロのようなものだったかもしれない。もしかしたらクビになったかも、クラッシャーだったかも。もう戻れないと、それくらい悩んだ。
  • お:温泉はくだらなかった(笑)。
  • は:それはしんちゃんで良いと思った。しんちゃんは1~10作目まで自分で、8作目までは興行収入が落ちている。温泉で初めて一桁(億円)。一本映画を作るのも悩ましいことだった。落ちてはいるが作ってはいた。また落ちたら次はないかもと。温泉でもう終わりかと思ったが、もう一本だけ予算を押さえて、期間も1ヶ月→3週に抑えて、やろうと。最後に楽しんでもらえるようにジャングルを。笑いを大事にした作品で、興行収入もあがった。
  • は:次がある。ただネタは無い。公開は2001年なので、それじゃあ60~70年代の、21世紀はどうなるかと思っていた頃のことをやろうと。でも途中でやばいと思った。収集がつかない。難しい。ケンとチャコを出したときに、存在感のあるシーンを描けて、段々と映画になる実感が持てた。夕日町を下りて商店街を歩くシーンは京アニの天才アニメーターの木上益治さん。木上さんが京アニ代表の一人として参加してくれた。一人で描いたシーンがすごい。人、自転車、三輪、店内の人たち、...。3Dは使っていない。背景は中村隆さんだった。あのシーンを作った人はもういない。
  • は:ふと、こいつら(ケンとチャコ)の動機は何なのか?と思った。プロデューサーにも「そいつはまずい」と言われた。でもどうしようと。説明するのも時間がない。なので商店街のシーンでケンとチャコに話してもらうようにした。実はこれはわりとやばい段階で、アフレコ台本にも載せられていなかった。危ないところだった。

(終了)

補足

『カラフル』、『かがみの孤城』『オトナ帝国』に続き、もうひとつ上映企画を計画しているとのこと。お楽しみに。

映画『かがみの孤城』舞台挨拶 内容書き起こし(2023/12/23)

注意事項

個人的にメモとして書き留めていたものを書き起こしたものです。 細かい言い回し等まで完璧に再現できているものではありません。 また内容に誤りを含む可能性があります。 ご了承ください。 致命的な誤りがありましたら修正しますのでご指摘をお願いします。

イベント情報

  • 【日時】2023/12/23(土)18:30の回 上映終了後
  • 【会場】シネマスコーレ
  • 【登壇】原恵一監督

補足:この直前のトークショーイベントでQAの時間を取れなかったのでこの舞台挨拶の時間が全てQAに充てられている

Q1

今日で4回目の鑑賞になる。 靴を履くシーンがきめ細やかに描かれていた。 これについてお話いただけることはあるか。

A1

藤子先生の作品には靴問題と呼ばれる問題がある。 部屋から飛び立って路上に降りることになると靴が無くてまずい。 また、エスパー魔美も部屋から飛び立って路上に降りることになると同様にまずい。

毎回靴をはくという所作は見ている人にとっては無駄。 最初だけ見せて、あとは見せないといった感じにする。

かがみの孤城でも、靴下のままにするのはまずいと思い、靴を持っていって履くということを示した。 原作では(絵がないので)良かったが、アニメにするとまずいので工夫する必要があったということ。

Q2

最後の足元を映すシーンは前向きに踏み出したということか。

A2

かがみの孤城では足元を見せることで表情を想像してほしかった。 ただしアニメの監督しては普通はやらないことで、これを思いついて嬉しかった。 ラストが人物の表情変化でなくても成立する、表情だけが表現じゃない、それが映画だと思った。

Q3

萌の家でアイスを食べるシーンは、なぜ蓋をひっくり返すところに差をつけたのか。 ※萌は蓋をひっくり返したがこころはひっくり返していない

A3

それは迂闊だった。 気を使っていなかった。

Q4

鍵を扉に差し込んだままのシーン、階段を上がる前に絵をおいてシーンについて、あとで邪魔だからそのようにしたのか。

A4

鍵や絵をおいていったのはあとが面倒だから。 鍵は扉をあけるだけのアイテムなので問題なかった。 絵は邪魔だった(笑)。

絵が飾られているシーンでのこころと萌の会話のシーンは好き。 萌(の中の人)はポカリスエットのイメージガール(こころのオーディションに来た)。 こころ(の中の人)はカルピスウォーターのイメージガール。 このふたりが会話しているのが良い(笑)。

Q5

中学生の娘に質問を頼まれた。 マサムネの「真実はいつもひとつ」は誰の発案?

A5

自分の遊び。 キャスティングの段階で高山さんにお願いしていた。 役名がある人はひとりずつレコーディングした。 次の日に高山さんというときに何かやってもらえないか考えた。 そのシーンのBタイプとしてコナン君っぽいことをやってとお願いした。 高山さんが拒否したらやめようと思ったけど「いいよ」と。

色々言い訳を考えていた。 「このセリフは遊びじゃない」「時間がずれている」「キャラとしても謎解きキャラで良い」等。 色々考えていたがあっさりと承諾してくれた。

Q6

中村隆さんのことをお聞きしたい。

A6

この仕事をやっていて一番古い付き合いだった。 クレヨンしんちゃんの雲黒斎の野望で自分は絵コンテ、中村さんが美術監督だった。 そのときにすでに良い絵だと思った。 いつか河童のクゥと夏休みを作ってそのときに美術監督をお願いしたいと。 カラフルでもバースデー・ワンダーランドでも。

かがみの孤城で打ち合わせをしてそろそろ美術ボードを作ろうとしていたとき(初夏)、ご飯でも飲みにでも行こうと話していた数ヶ月後に亡くなった。

誰を代打にしようかと困った。 映画の美術は誰でも良いわけではない。 百日紅魔女の宅急便美術監督だった大野さんが「美術ボードだけはできる」と言ってくれた。 美術監督はまた別の若手の方。 同じ仕事をしている人の助け合いに救われた。

映画『かがみの孤城』公開の前と後(私語り)

はじめに

先の12月23日をもって映画『かがみの孤城』が公開から一年を迎えました。 いちファンとして、この映画が今でも日本のどこかで、または海外のどこかで上映されていることを嬉しく思います。 私自身、映画館に足繁く通って鑑賞してきました(鑑賞記録 )。 本記事ではこの映画の公開の前後での私のことを簡単に書き留めます。

公開前

いきなりネガティブな話になります。 公開前の半年間ほどの私の「現実」は人生の中でも非常に良くないものでした。 社会人として日々働いているわけですが、会社での立ち位置が自分の望みとはかけ離れており、毎日を生きる苦しさや、将来の希望の持てなさを感じていました。 また部署異動等もあり、孤独感のようなものも抱えている状態でした。 会社を休みがちになったり、精神的なところを専門とする医者にかかったりしていました。

ただ、それでも、気分転換のために公開中の映画はたびたび見に行っていました。 『アイの歌声を聴かせて』という作品に魅せられてから映画を見る習慣ができていたからです。

かがみの孤城』もそうして鑑賞したうちのひとつです。 公開前はよくあるアニメ映画かなあくらいの感触で、期待値はそれほど高くなく、ある意味では流れ作業的な鑑賞だったかもしれません。 原作が本屋大賞を受賞したことも、監督が原恵一氏であることも、特に意識のうちに入ってはいませんでした。

公開後

公開日の2022年12月23日に見に行きました。 初見の感想として「この作品は好きだな」と。 例えば、人の想いが巡り巡っている部分(アキ⇔こころ)が好きでした。 また、難解な社会問題をテーマにしておきながら、ほのかな希望を感じさせる締めも好きでした。 映画を見た帰りに早速原作を買っていました。

そこからハマるのは早かったです。 その2日後に早速2回目を見に行ったり、原作小説を読み進めてみたり。 原作は本当に良かったです。 まだ読んでいない人は是非読んでほしい。 特に最後のエピローグは、そこら辺の小説の追随を許さない素晴らしいストーリーだと思っています。

そんなこんなで「これは良いものだ!」と確信して、やっとグッズ収集に着手した頃には、すでにグッズが軒並み売り切れてしまっていて、その中でも願いの鍵は本当に無くて、大阪中の映画館を探索した記憶が残っています(そのときは結局入手できなかった)。 年末年始の期間中は頻繁にかがみの孤城を見に映画館へ足を運び、年末年始が終わった後も基本的に休日にはかがみの孤城を見に映画館へ足を運ぶ、そんな生活がしばらく続きました。

これは初めてだったと思いますが、映画の舞台挨拶というやつにも何回か参加してみました。 監督の原恵一氏や原作の辻村深月氏、キャストの皆さんの話を直接聴く経験をしました。 そもそも映画のイベントのためにわざわざ居住の大阪から新幹線に乗って東京まで行くというのも、以前では考えられなかったことです。

結局、この記事の執筆時点で60回鑑賞しました。 これほど多くの回数を鑑賞して面白いと思ったのは、回数を重ねるごとに印象に残るシーンが移り変わっていったことです。 「いつも闘っているでしょう?」のシーン、喜多嶋先生がアキだと示唆されるシーン、みんなの真実がわかるシーン、こころが自身の真実を打ち明けるシーン、ラストの足並みが揃っていくシーン、etc。 ちなみに今は「助けてくれてありがとう」の周辺のシーンになります。 隅から隅まで舐めるように視線を凝らして鑑賞を重ねた結果、それぞれのシーンの解像度が次第に上がっていったことの表れかもしれません。 加えて、原作やら漫画版やら海外版やらにも色々と手を出して、同じ物語に対する多面的な表現を味わった結果、映画で見えている以外からの補完的な効果が効いてきたのかもしれません。

この映画を見て私は心持ちが少し変化したと思います。 この映画は人生の暗黒期に入っていた自分を助けに来てくれたのではないか? この映画自身が劇中の「鏡の城」となって仲間達を繋げてくれるのではないか? 自分はそのような仲間達のために何かできるのではないか? 今は「現実」に100%に生きるのはやめて、適度に力を抜きながらなんとか生きることができている状況です。 「現実」で何かあっても私には「鏡の城」があるので。

現在

今でもかがみの孤城を上映してくれる映画館の情報をキャッチして、可能であれば鑑賞のために奔走しています。 公開から一年を迎えた2023年12月23日からは、名古屋のシネマスコーレで上映ということで、やはりお邪魔した次第でした。 今後もどこかで上映が続いていくことを願っています。

丹波国際映画祭にて

パイプラインでのデータ喪失の現象に暫定対処する(シェルスクリプト)

課題

パイプラインの中で別のマシンへログインする操作を含む場合、パイプラインを流れているはずのデータが喪失する。

例えば以下のようなスクリプトを考える。 これを実行すると標準出力には1から10までの数値が出力されることが想定される。

seq 1 10 | while read -r d
do
    echo $d
    ssh $user@$host echo hello
done

しかし、実行結果は以下のようになった。

1

解決策

「課題」に記載の通り、悪さをしているのが「他のマシンへログインすること」であることは明白だ。 ただし具体的にどのような動作が行われているのかは筆者にはわからない(詳細についてご存知の方はこっそり教えてください…(:3 」∠ )

しかし、原因が完璧にわからなくとも、暫定の対処は可能だ。 ヒントは以下の記事にある。 つまり「他のマシンへログインする」ためのシェル実行環境を隔離してしまえばよい。

副作用の影響を局所化する

ただしログインすることがプロセス全体に対して影響を及ぼす可能性を考慮して、サブシェルではなくバックグラウンドプロセスとして本体から切り離して実行することとする。 このとき一つだけ注意するべきは、バックグラウンドプロセスとして切り離すと処理が独立してしまい、もとのプロセスと同期されないことだ。 なので、もとのプロセスでwaitコマンドを忘れずに入れて、処理を同期するようにする。


上記の内容を反映すると、「課題」で例示したスクリプトは以下のように書き換えられる。 これを実行すると、標準出力には期待通り1から10までの数値が出力される。

seq 1 10 | while read -r d
do
    echo $d
    (
      ssh $user@$host echo hello
    )  &
    wait
done

所感

これは最近業務において実際に筆者が遭遇した問題を題材にしている。 様々なサーバへログインしてコマンドを実行する・ファイルをコピーするスクリプトを含めたところ、課題にあるような状況が発生して恐怖した。 詳細な調査に時間をかけることができないため暫定対応を行った。

本番環境でないときにこのような状況に遭遇して現象を認識できたことは運が良かったと考えたい。

副作用の影響を局所化する(シェルスクリプト)

課題

小さい機能を実現するために必要な変更がスクリプト全体へ影響を及ぼしてしまうので気を使う。 例えばカレントを変更したり変数に値を代入したりすることだ。 どのようにすれば影響を局所化することができるのか。


具体例を示す。 カレントが maindir で、その下に subdir が存在する状況とする。

$ pwd
/Users/hogehoge/maindir
$ ls
subdir

この状況で以下のスクリプトを実行してみる。 各部分を通過した時点でのカレントと変数の値を表示するスクリプトである。

myfunc() { 
  cd subdir
  var=fuga

  echo "line 2: pwd = $(pwd)"
  echo "line 2: var = $var"
}

cd '/Users/hogehoge/maindir'
var=foo

echo "line 1: pwd = $(pwd)"
echo "line 1: var = $var"
myfunc
echo "line 3: pwd = $(pwd)"
echo "line 3: var = $var"

実行結果は以下の通り。 注目するべきは関数を実行する前後(line 1 と line 3)でカレントと変数の値が変化していることだ。 関数内での副作用が呼び出し元にも波及し、そのあとのシェルスクリプトの動作に影響する。 これは好ましいことではない。

line 1: pwd = /Users/hogehoge/maindir
line 1: var = foo
line 2: pwd = /Users/hogehoge/maindir/subdir
line 2: var = fuga
line 3: pwd = /Users/hogehoge/maindir/subdir
line 3: var = fuga

解決策

サブシェルを利用する。

サブシェルはもとのシェル実行環境からは分離されたシェル実行環境である。 カレントや変数はシェル実行環境を構成する一部である。 サブシェル内での副作用はもとのシェル環境には影響しない。


「課題」で挙げた例を、今度はサブシェルを利用して実行してみる。 関数定義を囲む「{」と「}」をそれぞれ「(」と「)」に変更している。

myfunc() ( 
  cd subdir
  var=fuga

  echo "line 2: pwd = $(pwd)"
  echo "line 2: var = $var"
)

cd '/Users/hogehoge/maindir'
var=foo

echo "line 1: pwd = $(pwd)"
echo "line 1: var = $var"
myfunc
echo "line 3: pwd = $(pwd)"
echo "line 3: var = $var"

実行結果は以下の通り。 関数を実行する前後でカレントと変数の値が変化していないことがわかる。 つまり、関数内での変更が呼び出し元に影響せず、理想的な形になったということだ。

line 1: pwd = /Users/hogehoge/maindir
line 1: var = foo
line 2: pwd = /Users/hogehoge/maindir/subdir
line 2: var = fuga
line 3: pwd = /Users/hogehoge/maindir
line 3: var = foo


本記事の例として、関数を丸ごとサブシェルで実行することを挙げたが、もちろん関数単位でなくともサブシェルを利用することはできる。 というよりむしろそちらが普通で、関数をサブシェルで定義できることを知らない人の方が多いだろう。

例えば筆者は以下のように利用している。 簡易的なビルド用スクリプトである。 複数のRustプログラムのパッケージがあり、それらすべてをビルドするためにそれぞれカレントを変更してビルドを実行している(prog変数に次々とパッケージ名が反映される)。 いま自分がどこにいるのかを気にしないために(面倒くさいことを考えないために)サブシェルを利用しているわけだ。

...
(
    cd "rust/$prog"
    cargo build --release
)
...


なお、この記事と同様のことを実現するために、POSIX非準拠のコマンドを利用できる場合がある。 例えば変数の場合は local コマンドによって影響範囲をローカルに抑えることができる。 POSIX非準拠でも問題ない場合はそれらを利用することを検討しても良い。


サブシェル自体に関して別途記事を執筆する予定。

所感

サブシェルをうまく利用できるか否かは、シェルスクリスプトの習熟度合を測るひとつの指標かもしれない。 自身の周囲ではこれを利用する人はほとんどいない。 ひとたび挙動を理解できていれば、恐れずに便利に利用することができるようになる。

データを処理する(シェルスクリプト)

課題

ターミナル上で大量のデータを処理したい。 例えば、センサーからストリーム出力されるデータをその場でサクッと解析したい。 また、例えば、システムのログ出力から必要なものだけを抽出してシステムの状態を確認したい。

解決策

大抵の場合は以下のようなコマンドを組み合わせることで事足りる。

  • wc
  • sort
  • uniq
  • awk


この記事では以下のデータを題材としていろいろな処理を行ってみる。

映画『かがみの孤城』鑑賞記録

これは個人的な映画鑑賞記録である。 この記事ではその文脈で、シェルスクリプトで何をしたいか記載する。

データはプレーンテキストで保存されているとする。 先頭は10行は以下のようになっている。 なお、この記事で処理をするデータは、この記事の初公開時点(2023/11/10)のものとする。

$ cat inputdata.txt | head
1 2022/12/23 AC四條畷
2 2022/12/25 AC大日
3 2022/12/26 AC四條畷
4 2022/12/28 梅田ブルク
5 2022/12/28 なんばパークスシネマ
6 2022/12/29 大阪ステーションシティシネマ
7 2022/12/29 ACシアタス心斎橋
8 2022/12/30 TOHOくずは
9 2022/12/31 梅田ブルク
10 2023/01/02 大阪ステーションシティシネマ

データを数える

鑑賞回数を知りたい。

$ cat inputdata.txt | wc -l
      58

データをソートする

鑑賞日の新しい順にデータを確認したい。

$ cat inputdata.txt | sort -k2,2r | head
58 2023/11/05 みやま市立図書館
57 2023/09/17 シネマ・チュプキ・タバタ
56 2023/07/23 目黒シネマ
55 2023/06/15 なんばパークスシネマ
54 2023/06/14 大阪ステーションシティシネマ
53 2023/06/11 あべのアポロシネマ
52 2023/06/10 なんばパークスシネマ
51 2023/06/09 大阪ステーションシティシネマ
50 2023/06/08 TOHO門真
49 2023/06/04 なんばパークスシネマ

※紙面の関係上、先頭10行のみを表示するようにしている。

特定のデータを抽出する

なんばパークスシネマを訪れた日付を知りたい。

$ cat inputdata.txt | gawk '$3=="なんばパークスシネマ"{print}' | gawk '{print $2}'
2022/12/28
2023/01/12
2023/03/18
2023/03/19
2023/03/26
2023/03/27
2023/04/15
2023/04/24
2023/05/27
2023/06/04
2023/06/10
2023/06/15

特定のカラムについて集計する

シアター訪問数のランキングを知りたい。

$ cat inputdata.txt | gawk '{print $3}' | sort | uniq -c | sort -k1,1nr
  12 なんばパークスシネマ
   8 AC大日
   6 大阪ステーションシティシネマ
   4 TOHOくずは
   3 AC四條畷
   3 TOHO門真
   2 梅田ブルク
   2 ヱビスシネマ
   2 あべのアポロシネマ
   1 AC津南
   1 ACシアタス心斎橋
   1 MOVIX京都
   1 MOVIXあまがさき
   1 TOHO西宮
   1 Tジョイ梅田
   1 シネマネコ
   1 チネチッタ
   1 目黒シネマ
   1 新宿ピカデリー
   1 みやま市立図書館
   1 下北沢トリウッド
   1 丸の内ピカデリー
   1 塚口サンサン劇場
   1 シネマ・チュプキ・タバタ
   1 グランドシネマサンシャイン

データを加工したうえで集計する

月ごとの鑑賞回数を知りたい。

$ cat inputdata.txt | gawk '{sub(/\/[0-9][0-9]$/,"",$2);print}' | gawk '{print $2}' | sort | uniq -c
   9 2022/12
  11 2023/01
   9 2023/02
   8 2023/03
   6 2023/04
   4 2023/05
   8 2023/06
   1 2023/07
   1 2023/09
   1 2023/11

所感

データ集計のために複雑なソフトウェアの複雑な機能に頼る必要はない。 大抵のことはシェルスクリプトで対応することができる。

シェルスクリプトに慣れないうちは、ひとつの操作を行うにも時間がかかってしまうかもしれない。 しかし、ひとたび慣れてしまえば、それぞれのコマンドがまるで手足として扱えるように思え、どんなことでも実現できるようになる。 その一端を本記事で表現できていればと願う。

映画『かがみの孤城』鑑賞記録

記録

No 日付 シアター
1 2022/12/23 AC四條畷
2 2022/12/25 AC大日
3 2022/12/26 AC四條畷
4 2022/12/28 梅田ブルク
5 2022/12/28 なんばパークスシネマ
6 2022/12/29 大阪ステーションシティシネマ
7 2022/12/29 ACシアタス心斎橋
8 2022/12/30 TOHOくずは
9 2022/12/31 梅田ブルク
10 2023/01/02 大阪ステーションシティシネマ
11 2023/01/03 あべのアポロシネマ
12 2023/01/06 MOVIXあまがさき
13 2023/01/08 丸の内ピカデリー
14 2023/01/12 なんばパークスシネマ
15 2023/01/14 塚口サンサン劇場
16 2023/01/21 AC津南
17 2023/01/23 AC大日
18 2023/01/27 新宿ピカデリー
19 2023/01/28 グランドシネマサンシャイン
20 2023/01/31 AC大日
21 2023/02/04 TOHOくずは
22 2023/02/11 TOHOくずは
23 2023/02/16 TOHOくずは
24 2023/02/17 AC大日
25 2023/02/21 AC大日
26 2023/02/23 TOHO西宮
27 2023/02/26 チネチッタ
28 2023/02/27 AC四條畷
29 2023/02/28 大阪ステーションシティシネマ
30 2023/03/02 大阪ステーションシティシネマ
31 2023/03/04 AC大日
32 2023/03/05 AC大日
33 2023/03/11 AC大日
34 2023/03/18 なんばパークスシネマ
35 2023/03/19 なんばパークスシネマ
36 2023/03/26 なんばパークスシネマ
37 2023/03/27 なんばパークスシネマ
38 2023/04/01 ヱビスシネマ
39 2023/04/01 ヱビスシネマ
40 2023/04/08 下北沢トリウッド
41 2023/04/09 シネマネコ
42 2023/04/15 なんばパークスシネマ
43 2023/04/24 なんばパークスシネマ
44 2023/05/26 Tジョイ梅田
45 2023/05/27 TOHO門真
46 2023/05/27 なんばパークスシネマ
47 2023/05/28 TOHO門真
48 2023/06/03 MOVIX京都
49 2023/06/04 なんばパークスシネマ
50 2023/06/08 TOHO門真
51 2023/06/09 大阪ステーションシティシネマ
52 2023/06/10 なんばパークスシネマ
53 2023/06/11 あべのアポロシネマ
54 2023/06/14 大阪ステーションシティシネマ
55 2023/06/15 なんばパークスシネマ
56 2023/07/23 目黒シネマ
57 2023/09/17 シネマ・チュプキ・タバタ
58 2023/11/05 みやま市立図書館
59 2023/11/11 ヱビスシネマ
60 2023/12/23 シネマスコーレ
61 2024/02/24 新文芸坐
62 2024/03/30 新宿ピカデリー

所感

たくさん鑑賞しました。