注意事項
個人的なメモを書き起こしたものです。 細かい言い回し等まで完璧に再現できているものではありません。 また内容に誤りを含む可能性があります。 ご了承ください。 致命的な誤りがありましたら修正しますのでご指摘をお願いします。
イベント情報
- 【イベント名】新文芸坐×アニメスタイル vol. 171 映画監督 原恵一 『かがみの孤城』『オトナ帝国の逆襲』
- 【日時】2024/02/24(土)16:55の連続上映回 上映終了後
- 【会場】新文芸坐
- 【登壇】原恵一監督、小黒祐一郎編集長
トーク内容
は=原恵一監督の発言です。 お=小黒祐一郎編集長の発言です。 各見出しは公式のものではありません。
はじめに
- お:今日初めてかがみの孤城を見た人は?...多い。
- は:けしからん(笑)。
- お:オトナ帝国が初めての人は?...少ない。
ヒット
- お:かがみの孤城は20年ぶりのヒット作とのことですね。
- は:アッパレ(戦国大合戦)以来すべてこけて、でもそれでも作らせてもらった。かがみの孤城で(10億くらい)ヒットして良かった。
- お:河童のクゥで終わりかと思っていた。それがまた新作が来て、そして大ヒットと。
- は:河童のクウ→カラフル→はじまりのみち→百日紅→バースデー・ワンダーランド→かがみの孤城、ときた。長編のしんちゃんは6本、それ以外でも6本。しんちゃんの監督というレッテルは剥がしていきたい。
- お:今もしんちゃんの監督と言われるね。
- は:それで気になってくれるのは嬉しい。実は泣かせる映画を作る監督と言われるのは不本意でギャグも下品もできる。どの監督も自由に作りたいものを作れるわけではない。得意分野が固定されている。
- お:かがみの孤城もカラフルと似ていると思われている。
- は:そう。カラフルも天使が最初に「おめでとう」と言うところから始まる(かがみの孤城ではオオカミ様が「ようこそ」)。テーマも「いじめ」「自殺」「中学生」と共通点があって、監督することにためらいがあった。IGの石川さんに言ったらすぐに小説を読んでくれて「絶対にやったほうが良い」と。石川さんの勘を信じてやって良かった。
映画尺
- お:コンテやったときは膨らんだ?
- は:それはなかった。難しいのは短くすること。小説は長編だが、アニメ化するために2時間以内にと言われる。それは無理だろうと。でもなんとか。こころを中心にした7人のストーリーで、脚本を作ったときには2時間を超えると思った。そこからは落とす作業。脚本でも絵コンテでも削った。打ち合わせをせずに欠番にしたものもあった。なので編集は楽。本編は1時間50分程度になった。原作ファンの人にも違和感を持たれないものにはなったと思う。ちょっとしたエピソードとかは原作から入れられなかった。説明の部分を絵として見せるとかも。
- は:文字では違和感なくても絵になると違和感あるなあと絵コンテ書きながら思ったりもした。例えば鏡を通って城へ行ったり来たりするとき、家では靴を履き、城では靴を履かないが、どうしようと。原作にはそのようなことは書かれていない。最初はみんな靴下で、次からは靴を履くようにした。一回だけ見せてあとはなし。藤子先生のドラえもんでも家からタケコプターで飛んでいったりするのと同じ。エスパー魔美ではしっかりやりたいと思い、しっかり靴を履いててレポートするようにした。
原案
- お:原さんの映画にしては「アニメ寄り」だった。昔の原さんからしたら「えっ?」となった。
- は:いろいろあって。かがみの孤城の話は早い段階から企画が上がっていた。バースデー・ワンダーランドの絵コンテのときから。合間にキャラのラフをイリヤさんにお願いした。イリヤさんはロシアのすごいイラストレーター。攻殻機動隊とかで良い仕事をしていたのでかがみの孤城でも描いてもらった。
- は:Signal MDで作るつもりだったができないと判断した。IGの石川さんにも相談したが無理で、結局A-1 Picturesで。A-1 Picturesのキャラデザをやっている人にも描いてもらおうと思って、佐々木啓悟さんに。それでほぼ完成形のものが出てきた。こっちも良いなと思った。イリヤさんは佐々木さんのほうが良いと。自分にとってはチャレンジだが今のお客さんにとっては良かったかも。
- お:イリヤさんは原案ではないのね。
- は:イリヤさんには城を作ってもらおうとなった。外観・内装・小道具・食器・模様など、日本人には描けないヨーロッパのデザイン。なるほどと思ったのは、部屋のドアが大きく、天井も高いこと。「そうそうそうだよ」と。宮殿とか無駄に空間が大きい。日本だと小さい。
動画・撮影
- お:動画の線が細い。モニターで見ると。
- は:それは自分の意図ではない。特に言ってもいない。初めて仕事をするスタジオで文化の違いがあった。例えばこころの髪の色。自分は茶系しかやったことがなかった。色彩設計のものを見たら濃い青で最初はびっくりしたが、濃い青が一番印象に残った(アニメっぽい)。映画でやってこれていて、3年に1回しか作らないので、その間に技術が進歩している。特に撮影。普通のカットでも髪のトップが少し明るく下にいくに連れて濃くなっている。それを知らなかった。こんなことをやっているんだと。あとは背景に影を落としたり、撮影に頼るものが多くなっている。
- お:誰が判断している?
- は:撮影の人が、そのほうが良いと思っていたからかと。
- お:今は撮影の人が半分演出している。
- は:すごいもんだなあと。彼らの仕事量が尋常じゃない。結局撮影はA-1から他のところの手伝いも入れてもらった。
絵コンテ
- お:絵コンテは?しっかりキャラを描いている?
- は:親切な絵コンテを描いている自覚はある。空間にカメラを置いて撮れるのを意識している。絵コンテは自分の仕事で一番力をいれるから時間がかかる。途中でラストシーンが浮かぶと手が動く。今回はこころとリオンの足元が並んで歩くところ、そこに向かっていけば良いと思った。最初ではぬかるみ、それが最後に光に向かって力強く歩くという変化を見せれば良いと。ラストショットが足元ってそんなに無い。良い顔を見せるより映画として良いと思った。
- お:井上俊之さんのカットもちゃんと盛り上げて気持ちを高めてくれると思った。
- は:他の子たちの辛い過去を見せたので派手にしたい、井上さんに頼もうと。あんな原画を描ける人はいない。カメラワークを手で表現&フルコマでやっている。細かいを指示を出している。最初は3コマ、次は2コマ、最後はスローで1コマ。松本さんや新井さんたちもスーパーアニメーター。5時が来てしまったときの大広間でのドローンカットのシーン、燃えるオオカミのシーン等。オオカミ様との会話→アキの救出の部分は井上さん。この「配役」はうまくいった。
作品との向き合い方
- お:作品との向き合い方について。登場人物に真摯に向き合う、アニメキャラといって距離を取らず人間として扱うのを、エスパー魔美の頃からずっと一貫していると思う。
- は:「こんなことするやつはいねえ」みたいな人は出したくなかった。アニメとはいえリアリティのあるキャラを譲らずやってこれている。
- お:だからこそ重いテーマでも向き合えてこれている。
- は:自分に何が足りないかを考えなくなってきた。このままで良いやと。
- お:今まではフィクションならではのものを考えたことがあったときがある?
- は:見た人が共感できることが大事だと思ってきた。それを自然に自分のスタイルにしている。しんちゃんも映画になったときリアリティがあるようにしている。今日上映されたケンとチャコも。オトナ帝国はしんちゃんとして5本目だったが革命的だった。彼らの行動を絵コンテで描いたときに思った。それまでの映画はパロティが多かった。最初はオトナ帝国でもそのようにしようかと迷ったが、馬鹿な悪役になるのは嫌だった。みんなには「こんなのしんちゃんじゃない」と言われるかもしれないと思った。偉い人には不評。でも真似じゃないものを作った!
- お:オトナ帝国ブームだったね。
- は:ロングラン。しんちゃんとして楽しんでくれた。映画ってこれで良いんだと教えてもらった。そこが転換点だった。最初はテロのようなものだったかもしれない。もしかしたらクビになったかも、クラッシャーだったかも。もう戻れないと、それくらい悩んだ。
- お:温泉はくだらなかった(笑)。
- は:それはしんちゃんで良いと思った。しんちゃんは1~10作目まで自分で、8作目までは興行収入が落ちている。温泉で初めて一桁(億円)。一本映画を作るのも悩ましいことだった。落ちてはいるが作ってはいた。また落ちたら次はないかもと。温泉でもう終わりかと思ったが、もう一本だけ予算を押さえて、期間も1ヶ月→3週に抑えて、やろうと。最後に楽しんでもらえるようにジャングルを。笑いを大事にした作品で、興行収入もあがった。
- は:次がある。ただネタは無い。公開は2001年なので、それじゃあ60~70年代の、21世紀はどうなるかと思っていた頃のことをやろうと。でも途中でやばいと思った。収集がつかない。難しい。ケンとチャコを出したときに、存在感のあるシーンを描けて、段々と映画になる実感が持てた。夕日町を下りて商店街を歩くシーンは京アニの天才アニメーターの木上益治さん。木上さんが京アニ代表の一人として参加してくれた。一人で描いたシーンがすごい。人、自転車、三輪、店内の人たち、...。3Dは使っていない。背景は中村隆さんだった。あのシーンを作った人はもういない。
- は:ふと、こいつら(ケンとチャコ)の動機は何なのか?と思った。プロデューサーにも「そいつはまずい」と言われた。でもどうしようと。説明するのも時間がない。なので商店街のシーンでケンとチャコに話してもらうようにした。実はこれはわりとやばい段階で、アフレコ台本にも載せられていなかった。危ないところだった。
(終了)
補足
『カラフル』、『かがみの孤城』『オトナ帝国』に続き、もうひとつ上映企画を計画しているとのこと。お楽しみに。